大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)214号 判決 1954年10月26日

主文

原判決を破棄し本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人の上告理由は末尾添付の別紙記載のとおりである。

案ずるに、原審の判示する処は『被控訴人本田安治は従来本件建物においてカフェーを営んでいたが、営業が振わなくなつたので、昭和二六年一月中渋沢徳太郎の世話で、被控訴人李己範との間に、右カフェーのホールにしていたところをパチンコの営業所に使用し、被控訴人李においてパチンコ遊技器その他必要な設備の費用を出資し、営業の名義人は同被控訴人とし、営業所の管理は被控訴人本田安治があたるという内容の遊技場共同経営の契約をし、これに基づいてパチンコ営業をしているものであつて』というのである。右の「名義人」とか「営業の管理」とかいう語は、如何なることを意味するのか不明である。原判文にいう「出資」「管理」等の語及被上告人李が営業の名義人となつたという事実等から見て、只単に被上告人本田安治が同李から消費貸借として資金を借受け自ら設備をして営業をして居る関係と解することは出来ない。李が設備費を出資して名義人となり本田が管理して居るという字句は、論旨にいう様に李が営業の主人であり、本田は李の為めに管理する占有機関に過ぎないものと見る余地も十分にあり、又それ程でなくとも共同使用、共同占有等の関係あるものと認むべき場合であるかも知れない(原審の引用した第一審判決事実摘示によれば被上告人等自身『共同で営業をする』云々といつて居る)。原審は被上告人両名の関係が如何なるものであるかについてなお詳細の審理判断をしなければたやすく上告人の請求を排斥することは出来ない筈であり審理不尽理由不備の違法を免れない。なお原審は上告人の「上告人自らパチンコ営業を営む必要があるから」本件賃貸借を解除した旨の主張に対し、上告人側の必要性については何等審理することなく「前認定のような事実の下では……正当の理由ということは出来ない」と判示して簡単に排斥して居る。しかし、もし上告人自ら本件家屋でパチンコ営業をしなければ他に生計がない(上告人は「必要がある」といつて居る)という様な場合であるならば原審の様に軽く扱うことは出来ない筈である。此点においても原判決は審理不尽の違法は免れない。

よつて民訴第四〇七条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例